
応援企業006
社会福祉法人 島根県社会福祉事業団
「使えない制度では意味がない。」男性育休取得率100%を目指す挑戦。

土井 康成さん
特別養護老人ホーム
「厚生センター八雲」・主任介護員
取得期間
28日間(2024年2月24日〜3月22日)
目次
- 上の子にさみしい思いをさせたくない。
- ただ、ありふれた日常を続けて欲しい。
- 子育てを応援する職場。
- 知られざるママの仕事。
- 「パパが好き!」を目指して。
上の子にさみしい思いをさせたくない。
- 岩本アナ
- 今年の2月から1か月育休を取られたそうですが、第二子誕生をきっかけに育休を取得されたんですね。取ろうと思ったきっかけってなんですか?
- 土井さん
- きっかけは4歳になる上の女の子の育児です。自分が家事を率先してやり、妻が下の子に専念できるように協力していけたらなと思って、今回取らせてもらいました。
- 岩本アナ
- なるほど。1人目の育休と2人目の育休で、男性の立ち位置が変わってくると思うんです。1人目で取得すると、初めての育児を夫婦で試行錯誤しながらやっていくことになると思うんですけど、2人目だと上の子のお世話になるんですね。
- 土井さん
- そうですね。「上の子がとにかく寂しくないように見ていて欲しい」と、妻から頼まれました。そこで、職場に相談をしたところ、すごく前向きに「頑張っておいで!」と言ってくださったのですごく助かりました。
- 岩本アナ
- そうですよね。上の子にとったら、今までパパとママの愛情は全部独り占めだったんですもんね。次女が生まれて、お姉ちゃんの精神面などに変化はありましたか?
- 土井さん
- 母親のお腹がどんどん大きくなってきて「何これは?」が始まりでした。「あなたが生まれる時も同じだったよ」と話すところから、少しずつ「妹だよ」と伝えていったので、生まれてからも妹という認識で名前を呼んで可愛がってくれたりしています。ヤキモチみたいなことも今のところはなさそうです。
- 岩本アナ
- それはやっぱり、育休を取ってパパがしっかりお姉ちゃんと向き合った期間があったからというのもあるんじゃないですか?
- 土井さん
- そうだといいなと思います(笑)。
- 岩本アナ
- 1人目の時に育休は取られていないんですよね?2人目の時に取られたというのは、1人目の時に奥様の大変な様子を見て次は取ろうと思ったとか、何か心の変化があったんですか?
- 土井さん
- 1人目の時には、生まれたことが喜ばしいと思いつつも、仕事も頑張っていかないといけないというのがあったので、あまり育休を取ろうという気持ちはなくて。それに対して妻も特に「取らないの?」みたいこともなかったので、自然と取らなかったという感じだったんです。
2人目の妊娠が分かった時は、家族で話をしていて、「私、入院するんだよ」「その期間をどうする?」「休みを取ろう」と考えて。計画的に育休を取得したいと思いました。
- 岩本アナ
- そうですよね、子どもがいる状態だと一緒に病院に行くこともできないですよね。
- 土井さん
- またコロナ禍っていうのもあって。1人目は生まれる時も退院する時も、病院に行けるのはお母さんだけでした。付き添いも全くなかったんです。2人目になると1週間目ぐらいから面会ができました。
- 岩本アナ
- 「上の子の世話を誰がするんだ?」っていうことで育休という存在にも気づいた感じですね。取っていないと家庭が回っていないということですよね?
- 土井さん
- そうですね。育休が取れなかったら土井家は回っていなかったですね。
ただ、ありふれた日常を続けて欲しい。
- 岩本アナ
- 今まで、男性は育休を取らないのが当たり前だったり、そもそも制度として確立していなかった時代がありました。それを考えると今はどんどん育休を取っていった方がいいですよね。
- 土井さん
- そうですね。子どもと触れ合える時間が増えるので、男性もどんどん取っていくべきだと発信をしていきたいですね。
- 岩本アナ
- 育休を取った1か月は、土井さんにとってどんな時間になりましたか?
- 土井さん
- 子どもや家族とのふれあいが増えたので、とても充実した密な時間が過ごせたと思ってます。
- 岩本アナ
- 家族全体で話し合ったりする時間は、仕事をしながらだとなかなか多く取るのが難しかったですか?
- 土井さん
- 全くないという訳ではなく、家に帰って子どもと触れ合い、お世話をするというのは日常ではあったんですけどね。育休中はより多く、全力で家族の時間に振り切れるので。声を大にして言いますけども、本当にそれが大事です。
- 岩本アナ
- それはそうですよね。仕事が終わってから家に帰って子どもとの時間となると、お風呂に入れて、そのまま寝かしつけまでいくので、遊んだり出かけたりする時間がまとめて取れないというか。 子どもが生まれて、土井家にとって新しい転換点が来たわけじゃないですか。そんな時に育休を取って、家族の絆はどうでしたか?
- 土井さん
- コミュニケーションをとる時間が増えて、より家族の絆は深まったと思います。
もともと家族の絆は強い方だと感じていますが、より一層、妻と細かなことを報告・連絡・相談できたので、そんなにストレスはなかったんじゃないかなと。妻に聞いてないから分からないですが(笑)。私はそう感じています。
- 岩本アナ
- 仕事が終わってから夫婦で子育ての話をすると、おむつの準備しておいてねとか、保育園の布団洗っておいてとか、そういう連絡事ばっかりになってしまうという声もありました。育休を取っている間は、連絡だけじゃなく日常会話もできる時間になるというか。
- 土井さん
- 心に余裕が持てますよね。仕事の後だと、なるべく早く切り替えはしようとするんですけど、疲れているからというチープな言い訳が出てきてしまう時もありました。育休期間中は忙しいことは一つもないので。それを言ったら私は負けだと思っているので。
- 岩本アナ
- 子育てで忙しいのは大丈夫と。家族との時間が増えたというのが伝わってきました。奥様は育休を取ることが決まってなんと言っておられましたか?
- 土井さん
- ありがたいと言っていました。先ほど言ったように「私が入院している間、上の子が寂しい思いをしないだろうか」と、妻は子どもを大切にしているので、困らせたり悲しい思いをさせたくないというのがあって。「ありふれた日常をそのまま継続してほしい」という思いがあって、「本当にそれが叶ったので嬉しかった」と言ってました。
- 岩本アナ
- 育児で忙殺されると、目の前の小さな幸せとかを見過ごしちゃったり、本当にいっぱいいっぱいになっちゃうこともあるので。そういう意味では、土井家は土井さんの育休によって「ありふれた日常の継続」ができたということですね。
- 土井さん
- そうですね。日常がそのまま過ぎ、この幸せが継続できたってことですね。
子育てを応援する職場。
- 岩本アナ
- 育休が終わった後も子育てというのは続いていくとは思うんですけど、育休を通して何か心の変化とか、仕事に対するモチベーションが変わったりしましたか?
- 土井さん
- 育休で仕事を休んでしまうので、他の方たちにしわ寄せが行くんじゃないかなと心配していたんですが、その辺は入る前と入った後も同僚の職員さんが「そんなことないよ」、「そんなことなかったよ、大丈夫だよ」という声掛けをしてくださって、とても気持ちもよく、復帰した後も支障なく仕事に戻れました。
- 岩本アナ
- 実際、育休に関わらず1か月一人休むって組織にとっては大変なことじゃないですか。そういった中で優しく声をかけてくれたっていうのは、復帰してからもこの組織この会社に対して、「いいところで働いているんだな」と思うきっかけにもなりますよね。
- 土井さん
- いつも思っていることなんですが、うちの会社は特に子育てであったり、子どもが体調不良で急に休むとなった時に、すぐサポートしてくださる上司の方達がおられるんです。時間の調整や勤務の調整を速やかに行ってくれるので、いつも感謝の気持ちでいっぱいなんです。仮に私が仕事をしている時に、他の方が休まれても「お互い様」という気持ちを持てているのは、やっぱり上司たちのおかげだと思います。
- 岩本アナ
- 日頃から、ということですよね。育休に限らず、子どもって急に熱が出たりしますもんね。「保育園に今からお迎え行ける?」というのは僕も妻とよく連絡したりしますけど。
そういった中で、日頃から上司や仲間が「帰っていいよ、大丈夫、やっておくから」という声かけをしてくれるから、育休も相談してみようかな、という意識になるということですよね。
- 土井さん
- そうですね。子どもに関する休みに対して、前向きな意見をいつもくださるので。育休を取りたいと相談したら、すぐに書類なども全部まとめてきてくださったり、こういう取り方もできますよと教えていただきました。自分は取得期間だけざっくり考えていたんですけど、制度としてこういうのがありますよとか、色々教えてくださって。
- 岩本アナ
- 制度の丁寧な説明があり、選択肢を会社が示してくれた上で、取り方の相談がしっかりできたということですね。それが言い出しにくい職場だと、育休は多分普及していかないですよね。会社や上司の方がうまく環境づくりをしておられるということですね。
- 土井さん
- そういうことですね。
知られざるママの仕事。
- 岩本アナ
- 育休中の家事や育児は完全に分担してたんですか?長女のお世話は土井さん、生まれた子は奥様とか。
- 土井さん
- なるべく上の子は私が見るようにはしていましたが、妻に声をかけて、協力しながら分担していました。
- 岩本アナ
- 育休を取ったことで子育ての見え方が変わったことなどはありましたか?
- 土井さん
- 保育園に行くまでに、子どもが起きてご飯食べて、保育園の準備をして、車で送る。それだけのことなんですけど、「保育園バッグ」があるじゃないですか。皆さんバッグの中身が何かご存知ですか??
- 岩本アナ
- (笑)。エプロンとか連絡帳とか?
- 土井さん
- 「〇〇を何枚用意してください」っていうのが保育園の掲示版に書いてあるんです。それを毎回覚えないといけない。自分は慣れていないので「今日、紙おむつ2枚だけどいけるよね?」「いけるわけないでしょ!5枚必要だよ」みたいな。そういうことは妻にずっと任せていたので。育休期間の初め頃は「・・・分からんって!」みたいなこともあったんですけど、途中からだんだんと分かるようになってきて。先生と「おたより帳」を毎日やりとりするんですが、「今日の上の子の様子は〇〇で、朝食は何を食べて元気そうでした」とか「鼻水出てます」とか、そういうのも書くようになって、定着してきました。
- 岩本アナ
- 今まで保育園バッグの準備は奥様がしてくれていたけど、今回育休を取って土井さんが準備してみて改めて、こんなこともあったんだと分かったということですね。
- 土井さん
- 小さなことなんですけど、子どもにとってはバッグの中のものがあるかないかで、保育園での過ごし方が違ってくると思うので。
- 岩本アナ
- 男性はごみ捨ても、持って行くだけでやった気になってるとか言われますが、それと多分同じですよね。用意されてる保育園バッグを持って保育園に送って「送り迎えしてます」と言っていたけど、実は送るまでの過程にもたくさんやることはあったんだと。だけど、それは大きな発見かもしれないですよね。育休を取らないとわからなかったことですし。
- 土井さん
- ・・・いえ、わからなかったわけじゃないんですよ。見て見ぬふりをしていた私がいるんですよ。横目でチラチラ見てはいましたけども。「やってくれるだろう」みたいな、浅はかなところがあったというか。
- 岩本アナ
- (笑)。いざ、やる当事者になってそこを痛感したと。奥様がいろいろ準備しているのは知っていたけど、それじゃダメだと。でもそこに気づけたことで、奥様がこれから土井さんを見る目も少し変わりそうな気がしますね。
- 土井さん
- そうだとありがたいですね。
「パパが好き!」を目指して。
- 岩本アナ
- 今後も仕事をしながら育児参加されていくと思うんですけど、仕事と育児の両立については今後どうしていきたいですか?
- 土井さん
- それこそ、育休中の延長じゃないですけれども、送り迎え、保育園バッグ、食事の準備などはこれからもなるべく分担していけたらなと考えています。
- 岩本アナ
- 育休が一つのきっかけになったというか。子どもとの接し方だったり、仕事と育児の両立についての考え方も見直し始めているということですね。
- 土井さん
- その通りですね。これまでも家のことは率先してやるようにしていたんですけど、子どもに関しては妻に「ちょっとお願いね」という部分もあったので。仕事でも入居者さんの生活のお世話をさせていただいていますので、家事は割とできていたんですけど、子どものことになると少し億劫になるというか。
- 岩本アナ
- わかりますよ。僕も子育てしてて妻に少し甘えちゃうところがあります。子どもがママの方が好きって言うから、「じゃあおむつ替えママにやってもらおうか」みたいな(笑)。でも、ママが好かれるのはきっと子どもにいろんなことをしてあげているからだと思うので。「パパが一番好き」と言ってもらえるように、育児もどんどん参加していかないとな、と思います。
- 土井さん
- いや、ほんとです。
- 岩本アナ
- いいきっかけになりましたね。

勝部 正子さん[特別養護老人ホーム「厚生センター八雲」・施設長]
土井さんの上司

山本 洋平さん[法人本部事務局・人事給与係長]
法人の育児休業の取得促進を担当
目次
- 育休だけじゃなく、日頃から助け合う。
- 法人としてのビジョンをはっきりと示すこと。
- 働きやすい職場は、いい人材を呼ぶ。
- 「制度はあるけど使えない」では意味がない。
- 子どもを連れて来られる職場。
育休だけじゃなく、日頃から助け合う。
- 岩本アナ
- こちらでは男性の育休は進んできているんでしょうか?
- 山本さん
- こちらの特別養護老人ホーム「厚生センター八雲」だと、今年は土井さん一人が育休を取っておられるんですけれど、法人全体だと運営する福祉施設10か所中4人の男性が、今年に入ってから育休を取っています。
- 岩本アナ
- 今年で4人も取っておられるとなると、人員の配置などが大変ではないですか?
- 勝部さん
- 厚生センター八雲は、女性の方も3人育休取得中なので大変は大変ですけど、他の部署(ユニット)から応援してもらったり、お互いに支え合いながら、みなさん協力してくださっているのでなんとか回っています。
- 岩本アナ
- 土井さんのお話で「お互い様」という話が出たんですけど、「みんなでフォローし合おう!」といった環境や考えが根付いているということですか?
- 勝部さん
- 育休に限らず、日頃から子どもが病気になった時の勤務交替なども結構あるので、日常的にお互い助け合う環境になっているので、育休だから特にということはないですね。
- 岩本アナ
- こちらで働いてるみなさんは福祉に携わっておられるので、助け合いの気持ちを強く持っている人も多いのではないでしょうか。なかなかそこが根付かなくて、男性育休が進んでいかないという企業もあると思うので。「あの人が休んだ代わりに自分もフォローしよう」「もし自分に何かあった時はフォローしてね」という意識の根付かせって、大切ですよね。
- 勝部さん
- そこがあるから育休も気兼ねなく取れるような環境になっていると思います。
法人としてのビジョンをはっきりと示すこと。
- 岩本アナ
- 育休を取りやすくするために取り組んだこととして、全職員に周知をしたり、理事長メッセージを掲載されたと伺いました。
- 山本さん
- 法人全体で「職員の働きやすさの向上」を目指しています。職員が働きやすく、私生活を充実できれば、利用者へのサービスの充実につながる、という考え方です。
そのため育休だけでなく、妻の産前6週、産後8週の期間で自由に5日間、有給休暇とは別に男性の育児参加のための休暇制度も作りました。「男性職員の育児休業制度100%取得」を法人として目標にして始めたのは令和2年度からでしたが、制度を作っても最初はなかなか浸透しなかったんです。でも理事長のメッセージを掲載したり、発信を続けていくことで、少しずつみなさんが「取ってもいいんだ」という雰囲気になってきたのかなと思います。
- 岩本アナ
- 一朝一夕で変わるようなものではないですもんね。4年ぐらいかけてようやく根付いてきたかな、というところですか?厚生センター八雲としてメッセージを出し続けていたんですか?
- 山本さん
- 当センターだけではなく、法人全体の中でメッセージを出して、職員向けの電子掲示板などで周知したりしました。あとは育休の取得方法や制度のことを、配偶者の妊娠が分かった時点で説明する機会を必ず作ってもらっています。育休を取るというのは義務ではないので、対象になる人にちゃんと伝わるように努めています。そんな風に制度を構築していきながら、あとは職員同士が声を掛け合って、「取ってみたら?」という感じになっているんじゃないかと思います。
- 岩本アナ
- 人一人が誰か他の人の面倒を見るとかお世話をするって、とても大変なことじゃないですか。やっぱり心に余裕がないとできないですよね。そういった意味で、職員を大切にすることが、巡り巡って組織としていい方向に還元されるだろうということですよね。
- 山本さん
- そうですね。組織としてはそうしていて、職員に対しては身近な管理職に当たる施設長さんなどに、実際に声を掛けてもらったり、業務や職員の調整をしてもらっています。
- 岩本アナ
- 施設長である勝部さんとすると、厚生センター八雲で、どうやったら対象の人が育休を取りやすいかを考えながら試行錯誤でやってきたということですか?
- 勝部さん
- 私だけではなく、課長、係長、それぞれのセクションの人と相談して、取りやすくなるように進めていたという感じです。
- 岩本アナ
- 福祉の業界って人手不足とも言われるじゃないですか。そういった中で育休を推進していくというのは大変だったんじゃないですか?
- 勝部さん
- 大変ですね。今も大変です(笑)。
- 岩本アナ
- でもやっぱりそこはお互い様というか、一人一人がそういう思いを持っているということですね。
土井さんが取る時もみんなが「行っておいで」と声をかけてくださったと言っておられました。
- 勝部さん
- やっぱり、日頃からの助け合いだと思います。
土井さんも他の職員の急な休みなど困ったときに快くフォローしていたからこそ、周りのみなさんも土井さんが育休を取るときに、そういう雰囲気になったんだと思います。
- 岩本アナ
- そういった助け合いを普段からちゃんとしてるから、今回たまたま育休だっただけぐらいの認識なんですかね。
- 勝部さん
- そうだと思います。
働きやすい職場は、いい人材を呼ぶ。
- 山本さん
- コロナの時、感染の疑いがある職員には休んでもらっていたんです。急に誰かが休みになっても現場がきちんと回せるように施設では工夫をしていたので、育休で人が抜けてもなんとか仕事を分担することができているんじゃないかなと思います。
- 岩本アナ
- 本当に助け合いの毎日ってことですね。あの人が休むのは仕方ない。自分ももしかしたらあるかもしれないからと。
- 勝部さん
- 実際に今、他の男性職員が育休を取りたいと言っておられるんですが、やっぱり土井さんが先に取っているので取りやすいというのもあるみたいです。
- 岩本アナ
- いいですね。男性育休っていい循環が生まれないと、どうしても広まっていかないと思うんですよね。一人が取っても「いや、俺は仕事があるから休めない」とかなると、なかなか。
- 山本さん
- 奥様が男性に育休を取ってほしいと言うケースもあるし、時代的にもそういう流れになっているのかなと思います。
採用担当をしているのですが、今は多様な働き方とかライフスタイルを重視する人が多いと思うので、「男性も育休が取れて当たり前」というふうにもっていきたいです。人材不足を解消するためにも、男性も育休が取れることをもっとアピールしていきたいなと思ってます。
- 勝部さん
- 採用活動や事業者面談会などでも、女性も男性も育休を取りやすいですと説明すると「いいですね」と言われます。「子どもを育てやすいですね」と言われます。
- 岩本アナ
- やっぱり人材の定着にも繋がりますよね。育休を取る人たちって働き盛りの世代だと思うので、やっぱりそういう人たちに辞められるのってね・・・。
- 山本さん
- そうですね。切実な問題です。
- 岩本アナ
- 人手不足だからこそ育休を推進することで、一時的に人員がいなくなる期間はあるかもしれないけれど、長い目で見れば、企業としてもいい人材が定着してくれる、というのは重要ですよね。
- 山本さん
- そうですね。制度を作ってそれをどう運用するか、施設長さんたちが一番苦労していると思います。特別養護老人ホームの職員の配置基準では利用者三人に対して介護職員等を一人配置すればいいという人数の基準が決まっているんですが、事業団のユニット型特養は1.6対1程度の割合で職員を手厚く配置しています。実際、欠員が生じる施設もありますが、それでも1.8対1の割合で配置しています。ぎりぎりの人数を配置していたら、一人休みが出るだけで本当に回らなくなると思います。
- 岩本アナ
- それこそ「休みます」と言ったら「なんで休むんだよ、忙しいのに」と言われるようなことにもつながってしまいますよね。
- 山本さん
- 職員間のゆとりは大切だと思います。「お互い様」の気持ちで、休めるようにすることで、職員から良い口コミが広がり、人材確保につながっていくことを目指したいです。
「制度はあるけど使えない」では意味がない。
- 岩本アナ
- 現在も男性職員から育休の相談があるということで。
- 勝部さん
- 「今年度中に育休を取ります」と言っておられる方がいます。
- 岩本アナ
- 育休の相談が気軽にできるというのはいい循環が生まれている証拠ですよね。会社としても4年かけて実らせたものがようやく根付いてきたということですよね。男性育休を100%取得するようにしていきたいということですが、そのためにはこれからどんなことが必要だと感じますか?
- 山本さん
- 希望する人に関しては全員取れるということが法人の目標となります。土井さんのように育休を取得した実績がある職員の声を、法人内で周知してPRすることで取得しやすい雰囲気を作っていきたいと思っています。
- 岩本アナ
- 土井さんも35歳で働き盛りなので、そんなバリバリ働いている方も育休を取っている、と知ってもらうことが大事ですよね。それとやはり育休中の収入面の不安も皆さん感じるところかと思うのですが。
- 山本さん
- 収入は大切だと思います。そのためにも、育休を取得したときに育児休業給付金がどのくらいもらえるかを丁寧に説明するなど情報提供をしっかり行っていきたいです。
法人共通の広報紙も作っているので、取得率などの数字だけではなく、実際に取っている人の「取ってよかった」という生の声を伝えるようにしていきたいですね。「制度はあるけど使えない」では意味がないと思いますので。
- 岩本アナ
- 勝部さんはいかがですか?
- 勝部さん
- その通りだと思います。加えて、気兼ねなく取れるようにするためには、フォローする職員さんの負担も考えるのがやっぱり大事だと思います。代替職員は募集してもなかなか見つからないんですけど、1時間、2時間でも働いてくれる人が来たらやっぱり皆さんの負担も少しは軽減できると思います。
- 岩本アナ
- 頑張っている職員さんたちのケアで、何かされていることはありますか?
- 勝部さん
- すべての時間の代わりの方は見つからないですけど、夕食の時間帯など忙しい時間に短時間で働くパート職員を採用したり、別の職員で仕事を分担してやりくりしています。
- 岩本アナ
- 忙しい時間を要所で助けてくれる人を、施設として新たに雇ったりして、できるだけ周りの職員の負担を軽くしたい、ということですね。
- 山本さん
- そうですね。ギリギリになって余裕がなくなると、みんなも「お互い様」という気持ちにならなくなりますから。
- 岩本アナ
- 施設もそういうことを考えてくれていると思うと、育休を取る人も取りやすいし、周りの職員も、あの人が休んでも代わりの人を用意してくれるし、と。
- 勝部さん
- なかなか厳しいですけど(笑)。
- 山本さん
- そこが本当に一番の課題なんですけどね。
- 岩本アナ
- けれど、そういったことも法人として前向きに検討されていたり、土井さんみたいな人が増えてくると、他の人が育休を取る時に頑張ると思うんでね。そういう良い循環になっていくことを目指して、これからも引き続き頑張ってもらいたいですね。
- 山本さん
- そうですね。そのためにもしっかりPRして人材を確保することが、やっぱり一番大事かなと思います。
- 岩本アナ
- 男性育休をきっかけに、人材確保も考えられるし、働く人の幸せというのも考えられるし、入居者さんの充実度にもつながるから、三方よし。後は、現場が大変にならなければ、というところですね。
- 勝部さん
- そこなんですよね(笑)。
子どもを連れて来られる職場。
- 岩本アナ
- 勝部さんは土井さんの上司に当たるそうですが、土井さんが育休後、パパ目線が増えていたり、やる気がみなぎっていたり、何か変化が感じられたことはありますか?
- 勝部さん
- そうですね、育休から戻ってきてから研修をどんどん積極的にやってくれたり、意欲的に働いてくれているなと思います。もともとがエネルギッシュな方なので(笑)。
- 岩本アナ
- 父親になると、モチベーションにも関わってきますから。良い循環が生まれてますね。
- 山本さん
- 今、男性が育児参加するというのが本当に当たり前になっているので、それを職場としても当たり前にしていかないと、と思っています。子育てに参加することで、育休から復帰後に利用者さんのケアとか、よりこまめに気が配れるようになるとかありますしね。
- 岩本アナ
- 育児をすると危機察知能力が求められますからね。
- 山本さん
- こちらでは障がいがある方や介護が必要な高齢者の方が対象者なので、子どもとは少し異なる部分もありますが、通じる部分も間違いなくあると思うので。そうすると、支援の質も上がるのかなと思います。
- 勝部さん
- 仕事に活きますよ。
- 岩本アナ
- いいことづくしですね。ちなみに法人全体だと何人ぐらい職員さんがおられるんですか?
- 山本さん
- 法人全体では920人ぐらい、男性が約4割ぐらいです。元々はもっと女性が多かったですけど、以前より福祉現場で働く男性の職員さんが増えてきていますね。
- 岩本アナ
- 女性が多い職場だと、育休への理解というのも進んでいるかもしれないですね。
- 山本さん
- もともと女性はずっと昔から育休を100%取得しています。お子さんが1歳になるまで取っておられるのが当たり前の職場だったので、これからは男性も取っていくんだね、という感じの流れになっていて、理解は確かに早いのかなと思います。
- 岩本アナ
- 土井さんも、「育休にかかわらず子どもが具合が悪くて急遽休む時も、みんな嫌な顔せずフォローしてくれる」と言っておられました。僕も同じように迎えに行ったことがあるから、将来部下ができたりすると言えると思うんです。「早く行け行け!」って。
- 山本さん
- 経験者が多いというのはあるのかなとは思いますね。
うちの法人では、職員さんが育休中に手続きなどで職場に来る時、お子さんを連れて来られることもあるんです。連れてきたお子さんが他の職員に代わる代わる抱っこしてもらっている様子をよく見るんですが、そういう場面を見るとあたたかい職場だなと感じます。
取材日:2024年9月27日
岩本アナウンサーの取材後記
育休の役割は、第一子と第二子以降で大きく変わります。
今回取材した土井さんは、第二子誕生を機に育休を取得し、主に4歳の長女の育児に専念されました。
これまで両親の愛情を独占していた長女にとって、妹の誕生は嬉しくもあり、寂しくもあるはず。そこで「父親の育休取得」が、家族全員の心のゆとりを生み出したんだと思います。
長女をしっかり抱きしめる時間、次女を育てる時間、家族で向き合う時間が増え、夫婦の会話も“業務連絡”ではなく、自然な日常会話へと変わっていったそうです。
さらに、育休前は「見て見ぬふりをしてしまっていた」という育児の細かい部分にも主体的に関わるようになり、夫婦で協力して子育てをする意識が芽生えたと話してくれました。
育休取得の背景には、職場の環境も大きく影響しています。
島根県社会福祉事業団では、日頃から「お互いさま」の精神で支え合う文化があり、人員配置にゆとりを持たせたり、男性育休取得100%を目標に掲げるなど長年の取組があったからこそ、このように自然に育休を取れる環境が整っていったのでしょう。
復帰後の土井さんは、仕事へのモチベーションがさらに上がり、育休の経験を生かした気配りが施設利用者へのケアにもつながっているそうです。
育休は個人の成長だけでなく、会社の魅力向上にも巡り巡って還元されていくのだと、今回の取材を通して改めて感じました。