応援企業002
安来第一病院

育休を「特別なこと」にしない。鍵となる、「あらかじめコミュニケーション」とは?

米沢 俊亮さん

理学療法士
勤続年数9年
子ども3人(小学校1年生・保育園・新生児 )
妻/約1年育休取得後、2か月前に時短で職場復帰

目次
  • 3人目で初の育休!その理由は?
  • 予定通り…にはいきませんでした!
  • 育休は子どものためだけじゃない
  • 育休2大不安「仕事」と「お金」
  • 男性育休の浸透に必要な「ムード」と「理解」
  • 育休復帰後、今何を思う?

3人目で初の育休取得!その理由は?

岩本アナ
3人目のお子さんが去年8月に誕生されたとのことで!3人目ではじめて育休を取ることを決めたきっかけは何だったのですか?
米沢さん
1人目の時は、仕事から帰って一緒にお風呂に入ったり、子どもが寝るまでの間ちょっと遊んだり、そんな感じだったのですが、2人目が生まれた時に上の子のお世話をしながらだったので赤ちゃんとあまり接する時間が取れなかったんです。だから3人目の時は上の子とも赤ちゃんとも過ごせる時間をしっかりつくりかったのと、出産直後の妻のサポートをしたいと思ったのがきっかけですね。
岩本アナ
育休を取るタイミングは産後直後に限らず自由に決められますが、米沢さんは奥様のケアも考えて時期を決めたわけですね。育休中の1日のスケジュールってどんな感じでしたか?
米沢さん
まず朝起きてから上の子2人の保育園の準備をして送り出して、そこから家の掃除などをして、あとは買い物に行ったり献立を考えたり。食事も作るようにしていました。
岩本アナ
すごいですね!なにが一番大変でしたか?
米沢さん
家事とか育児とか、普段の仕事とは全く違うことが中心になるので慣れないことばかりだったのが大変でした(笑)。あと料理が得意ではなかったので、食材の買い出しに行っても最初は何を買っていいかわからなくて(笑)。
岩本アナ
男性がぶち当たる壁ですよね。「献立を何にしたらいいんだ…」みたいな(笑)。産後1か月半ぐらいは奥様も身体へのダメージがかなり大きいですもんね。
米沢さん
赤ちゃんは夜中も起きたりしますので、朝から自分ができることはして、なるべく妻に休んでもらえるように意識はしていましたね。
岩本アナ
男性は女性の産後の身体の痛みって「聞く」しかできないじゃないですか。産後の身体での育児って大変だから、改めて2人でやっていくものなんだなって、育休を通して意識が芽生えますよね。

予定通り…にはいきませんでした!

米沢さん
ご飯作るとか、お風呂に入れるとか、育児ってそういう決まったルーティーンだけじゃなかったですよね。保育園から帰ってきたら上の子たちが遊びたがったり。育休を取得できたから色々知ることができたというか、再認識できた部分もあったと思います。
岩本アナ
それはほんと、育休を取らなかったら分からなかったことですよね。仕事している時も、育児をやらなかったわけじゃないと思いますけど、例えば家に帰ったらお風呂に入れるとか、決まったルーティーンをこなす日々だったと思うのです。でも子どもとずっと一緒にいると想定外のことが起きてくるじゃないですか?泣きやまないとか、全然眠らないとか。そういったイレギュラーへの対応の大変さも、育休中に感じませんでしたか?
米沢さん
そうですね。本当に、ほぼ予定通りにいかない(笑)。
岩本アナ
育休取得した人はみんな言うんですよ。「予定通りいかない」って(笑)。
仕事をしていた時に予定通りにできていたのは、陰で妻の努力がめちゃくちゃあったんだ…みたいなね(笑)。そういった苦労を分かち合って、奥様から育休を取ったことに関しては何か会話や接し方が変わったりしましたか?
米沢さん
今回のこの企画があって妻に話を聞いてみたら、助かっていたと改めて言ってくれました。上の子達のお世話や、家事&掃除が特に。
岩本アナ
子どもが3人いたらそれだけでも大変ですよね。初めての子育ても大変ですけど2人目3人目となるとまた別の大変さがありますよね。
米沢さん
育休を取ったことで、例えば保育園の送り迎えとか、食事のこととか、上の子達にも余裕を持って対応することができて。「上の2人のことを考えずにちょっとでも休めたのが良かった」と妻が言っていました。「育児休業=赤ちゃんのため」ってイメージが強いですけど、上の子たちがいればそっちにも手がかかりますね。そこは想像していたのとはちょっと違いました。
岩本アナ
確かにそれは取ってみてはじめて分かる事かもしれませんね。「生まれた子のためでしょ?」と思われがちですが、実は上の2人を見るのも大変でした、みたいな。

育休は子どものためだけじゃない。

岩本アナ
今回育休を取得して、2人目が生まれた時と比べて夫婦で分担できたり、負担が減ったりしましたか?
米沢さん
そうですね。ただスキル的に言ったら断然妻より低いので、ちゃんと分担できていたかどうかはちょっとあやしいんですけど…。多少なりともできたかなとは思います。やっぱりうまくいかないことってたくさんありますし、妻も僕に色々言いたいことはあっても、なるべく口を出さないようにしてくれていたみたいです(笑)。
岩本アナ
気にはなるけど…みたいな(笑)。思いやり合ういい夫婦関係が築かれている証ですね!
米沢さん
そうだといいなと思います(笑)。
岩本アナ
僕は育休を取った後で自身の子育ての考え方が変わりました。子どもが生まれて1年経ってから育休をとったんですよ。子どもの1歳の誕生日の時に保育園に入れなかったのと、妻も職場に復帰したい意向があったので、僕がバトンタッチで。実際してみると「こんなにやることあるのか」って思いましたね。妻は今までこれを1人でやっていたんだ…みたいな。育休を通して夫婦の会話が増えたりしましたか?
米沢さん
増えましたね。1人目、2人目の時によく「夫が帰ってくるまで大人との会話がない」というのを妻が言っていたので。話し相手ができたのも良かったのかなと思いました。
岩本アナ
確かに、子どもがいると外出も一苦労なので、なかなか外のコミュニティと繋がりが持てなかったりしますもんね。そんな中、夫が育休を取ってくれて会話する相手がいるだけでも違いますよね。

育休2大不安「仕事」と「お金」

岩本アナ
1か月半の育休を取る前に、心配事や不安はなかったですか?
米沢さん
不安だったのは大きく「仕事」と「金銭面」の2つですね。うちの場合は出産に合わせて取るというのを前々から決めていたので、ある程度出産日から逆算して調整できました。担当している患者さんの申し送りや引継ぎをしたり。
岩本アナ
引き継ぎに関してはスムーズにいきましたか?
米沢さん
そうですね。詳細に申し送りをさせてもらって、不明なところはお互いに話をしました。できるだけ自分がいなくても問題ないように育休の準備を進めました。
岩本アナ
育休期間中はもう全く仕事のことは考えなくてもいいような状況でしたか?
米沢さん
基本的には全く考えなくてもよい状態でした。引き継ぐスタッフも、ありがたいことに快く受け入れてくれて。理学療法士の現場は、育休の時だけでなく普段から休みを取る時は申し送りや引継ぎをして、違う人がフォローしたりもするので、スムーズだったのもあるかもしれません。
岩本アナ
職場のサポートもあって不安をクリアできたということですね。むしろ職場の人たちは前向きに「行ってこい」と送り出してくれた感じですか?
米沢さん
そうですね。周囲に育休を取った人がまだ少なかったので、どちらかというと驚かれることも多かったのですが、否定的な意見は全くなかったです。
岩本アナ
院内では男性が5人ぐらい過去に育休を取っておられますよね。そういった意味では「前例があるから自分も取ろう」みたいな気持ちもありましたか?
米沢さん
それはありました。すごく取りやすかったですね。会社からも意思確認があり「育休を希望したい」と伝えました。
岩本アナ
育休に関して積極的な会社だということですね。育休へのもう一つの不安「金銭面」はいかがでしたか?
米沢さん
普段働いている時と違って、毎月決まった給与があるわけではないので、貯金をくずしたり、そのあたりは夫婦で相談しながらやっていました。
岩本アナ
私も育休を取った時にそうだったんですけど、給付金が毎月ある訳じゃなく、終わった後の振り込みだったりね。ある程度蓄えをしておくとか、夫婦での話し合いが必要だと感じました。

男性育休の浸透に必要な「ムード」と「理解」

岩本アナ
今後、男性の育休取得を増やすために、米沢さんは何が必要だと感じましたか?今、島根県内で男性の育休取得を進めている中、安来第一病院さんは5〜6人の方が取っておられるんですよね!どういうサポートがあれば取りやすくなると思いますか?
米沢さん
仕事でいうと、職場で取りづらい雰囲気が無くなったり、男性の育休への理解が広がればいいのかなと思います。金銭面でいうと、例えばニュースで育休の引き継ぎで業務が増える職員に対する手当が出る企業を見たことがあって。そういう取組があると、休む側も育休を取りやすくなるのかなと思います。
岩本アナ
そうですね。育休取る人ばかりのサポートでなく、業務を引き継がれる側のケアっていうのも必要ですよね。そういうサポートがあると、「お願いします」と託しやすい育休に入れるかもしれないですね。
安来第一病院さんは、育休以外でも例えば普段の年休とか取りやすいとか、言いやすい雰囲気があったんですか?勤務9年の間に色んな方を見てこられたと思うんですけど、子育てに寛容な職場だなと感じておられますか?
米沢さん
全体的に取りやすい雰囲気の職場だと思います。普段から「子どもが体調崩したので今日休ませてください」とか、そういったイレギュラーなことにも対応してもらえます。
岩本アナ
理学療法士さんって月曜日から金曜日の平日勤務が主になるんですか?
米沢さん
当院の場合は土日も平日も関係なくシフトを自分で調整しています。普段から土曜日、日曜日でも子どもとの予定があるので休みを取りたいと言ってます。
岩本アナ
職場全体がそういう雰囲気だと、お休みを切り出しやすいですよね。1番上のお子さんが6歳ということは、3人ともこちらで在職中に生まれたのですね。
米沢さん
そうですね。育休取得を経験した先輩に休みの期間とか、タイミングとか、手続きはどうしたかとか、質問できたのも心強かったです。
岩本アナ
米沢さんは近くに両家のご両親が住んでおられるそうですが、どうしても困ったことがあったら、普段からサポートをしてもらっているのですか。
米沢さん
本当にサポートが必要な時はお願いしています。
岩本アナ
私達の親世代っていうのは、男性の育休が当たり前じゃなかった世代じゃないですか。私も母親から「育休を男性も取れる時代なんだね」と驚きの声があったんですけど、両家の親の反応はどうでしたか?
米沢さん
そうですね。うちの母親は今おっしゃったとおり、そういう時代じゃなかったのもあって、どちらかというと驚いていましたね。実は妻が、3人目は里帰り出産を検討していたみたいで、義母は男性育休を取ってもらって助かる、という感じでした。
岩本アナ
お母さんたちもまだ働いている世代なので、夫が育休を取って分担すれば、家族みんなの負荷が少なくなりますよね。そういえばその後、両家のお父さん達に飛び火していなかったですか?「今は男性も育児をしてくれていいねぇ。お父さんは全然やってくれなかった」みたいな(笑)。「あんたはおむつを一回も替えてくれなかったよね」と言われてお父さんがタジタジになっているのも、男性育休あるあるです(笑)。

育休復帰後、今何を思う?

岩本アナ
1か月半の育休からの復帰後は、いかがでしたか?
米沢さん
大きな心境の変化はなかったですけど、少し仕事から離れたことで復帰してからより仕事を頑張ろうと思えました。
岩本アナ
ご自身にとって育休はどういう期間だったと思いますか。
米沢さん
1人目2人目の時は何も考えず、仕事しながらの関わりだったので子どもと過ごす時間が短くて。3人目の子で初めて育休を取って今回はしっかりと子どもたちと過ごせたなと思います。
岩本アナ
今まではお仕事に行ってるパパみたいなイメージだった子ども達が、何かちょっと接し方が変わったりしましたか?いつもパパいてくれて嬉しいみたいな(笑)。
米沢さん
接し方は特に変わらず、結構雑にあつかわれてますよ(笑)。でもたとえば保育園から上の2人が帰ってきて、公園に行きたいと言われた時にこたえる時間ができましたし、赤ちゃんに対しても育休中は沐浴したり。3人全員とゆっくり関われたかなと思います。
岩本アナ
確かに奥様だけで育休を取っていると、なかなか上の子たちの希望にこたえられないですよね。夫婦2人いるからこそ、子ども達の相手がしっかりできますよね。
米沢さん
1番良かったと感じたのは、新生児からの1か月半ってすごいスピードで成長するじゃないですか。それを間近で見ることができたことですかね。特に2人目の時は上の子がまだ2歳だったので、どうしても上の子に手がかかってしまって、赤ちゃんの方に接する時間が少なかったのもあって。
岩本アナ
毎日見ているからこそ、昨日できなかったことが「今日はできている!」みたいな、小さな変化を身近で感じることもできますよね。仕事をしながらだとなかなか気づけないことですよね。ご自身の経験をふまえて、これから他の人に対して育休をどうすすめますか?
米沢さん
取りたいっていう気持ちがあるなら、遠慮せずに取った方がいいと思います。自分が取ってみて、業務や金銭など不安もありましたが、それ以上に良かったなと思うところがたくさんあったので。何より生まれた子どもと過ごす時間はかけがえのないものなので、タイミングを逃さないほうがいいなと思います。
岩本アナ
ご自身も育休を取ったということで、職場内で今後取りたい方がおられたら快く送り出そうという気持ちになりますよね。

太田 真英さん

リハビリテーション療法部部長

目次
  • 院内の男性育休の8割が在籍するリハビリテーション科
  • 時代で変わる育児の形
  • 事前に役立つ「育児希望調査シート」
  • 「あらかじめコミュニケーション」と「困った時はお互い様精神」

院内の男性育休の8割が在籍するリハビリテーション科

岩本アナ
太田さんは何年ぐらい安来第一病院で働いておられるんですか?
太田さん
理学療法士歴は32年で、ここでは29年ぐらい働いています。
岩本アナ
太田さんもお子さんが2人おられるそうですが、おいくつですか?
太田さん
29歳と26歳です。
岩本アナ
じゃあ、僕と同い年です!29歳なんで。平成6年生まれですね!
太田さん
本当ですか(笑)。上が娘で、下が息子です。2人とももう社会人で、娘は岡山、息子は京都に出ていて、娘は今年結婚しました。
岩本アナ
それはおめでとうございます!
太田さんはこちらで理学療法士の部署の管理職をされているとのことですが、理学療法士は何人ぐらいいらっしゃいますか?
太田さん
病院全体だと50人ぐらいで、リハビリセンターだけだと30人ぐらいです。
岩本アナ
リハビリテーション科の理学療法士5人が、これまでに男性育休を取られたとのことなのですが、太田さんが管理職の時ですかね?育休をサポートする中で、太田さんとしては育休を取りたいという男性に対してどういうスタンスでしたか?
太田さん
正直言うと最初はあんまりちゃんと分かっていなくて。男性育休を取りたいと1人目が言ってきた時に「なんじゃこれは?どういうものだ?」と(笑)。色々調べたり教えてもらったりしました。けれど男性が育休を取るということに対して問題があるとか、ネガティブな感情は最初から全くなかったですね。確かに「どうするんだ…」とはなりましたけど(笑)。今は全然。
岩本アナ
驚きの方が多かったんですね。時代の流れが男性も育休を取りましょうみたいになってきて「とうとううちも来たか」みたいな?取るのならちょっと総務に聞いてみようという感じだったんですね。
太田さん
そうそう。どんなもんか分からなかったので。取得の仕方など、自分も知っておかないとと思って。
岩本アナ
1人目の男性育休の取得は何年くらい前のことなんでしょうか。
太田さん
2年くらい前ですかね。
岩本アナ
じゃあここ2年で5人取っておられるんですね。やっぱり1人が取得すると、どんどん後に続いた感じですか?
太田さん
といいますか、理学療法士という仕事自体が若い職員が多いので、たまたま出産のタイミングが複数人重なったみたいな感じでした。1割とまでは言わないですけど、法人全体では、男女含めて産休・育休で休む人が常にいますので(笑)。だから男性が育休を取ると言っても2人目以降は「はいはい、了解!」って感じでした。

時代で変わる育児の形

岩本アナ
太田さんもお子さんが2人おられるということで、育児に関してはどんな感じで関わっておられましたか。
太田さん
私の時代は妻も育休を取っていなくて、産休明けて2か月くらいで保育所に預けて仕事をしていました。
私も、半日勤務とかの時は早めに迎えに行って。成長も見れたし、そういうのを楽しんでいました。
岩本アナ
太田さんのお子さんが生まれた頃というのは、30年ぐらい前ですよね。当時は男性が育休なんて言葉もなかったと思うんですけど、今の男性が育休を取るという世の中の流れに関して、ご自身の時代と照らし合わせて率直にどう感じますか?
太田さん
育休自体はいいなと。うちの職員にはぜひ育休を取って欲しいと思ってます。
育休を取ることで、男性が育児と向き合う意識が養われるきっかけにもなるのではと思います。私たちの時代は、「男性が働いて女性は育児をして」という価値観もありましたが、それは違うので。

事前に役立つ「育休希望調査シート」

岩本アナ
男性育休の推進について、特に職場内で取り組まれたことというのはありますか?
太田さん
推進に対して取り組んだかと言われると特にはないですが、割と早いうちから育休を取りませんか?っていう書類を事務の方が作ってくれました。それで、この職員はあの頃育休を取るな、というのが基本想定できました。
岩本アナ
希望の調査シートがあったということですね。そうですよね。突発的なものではないですもんね。出産予定日と照らし合わせれば、法人側としてもそのための準備ができますよね。
太田さん
病院としてそういう制度をしてくれてたので、対応はしやすかったです。最近は「その書類を出したか?」というのは声をかけるようにしてますね。
岩本アナ
育休を取られた男性5人の復帰後はいかがでしたか?
太田さん
復帰後は現状の仕事がどうなっているのか分からないと思うので、帰ってきた時のサポートをしっかりしないと困るだろうなと意識してました。
岩本アナ
育休の期間が終わって仕事モードに戻れるようサポートするみたいな。なかなか1か月以上仕事から離れることないですもんね。どういうサポートをしようと思っていたんですか?
太田さん
とにかく分からないことをほっとかせないように、分からないことを言いやすい雰囲気にしたいと思っていました。僕じゃなくても、先輩や同僚に「この患者さんはどんな人?」とかなんでも聞ける環境にすることは意識しましたね。みんなでサポートしていこうねっていう感じです。
岩本アナ
多分上司がそれをやってくれるのとやってくれないとでは、全然復帰した時の心の負担が変わってくると思いますね。育休入る前ってどういうサポートがいるなと思いましたか?引継ぎとかもあるんですよね?
太田さん
うちは365日をシフトで回してますので、直接の引継ぎって正直あまりないんです。普段から1人の患者さんを何人かで見るので、だから育休に入っていなくなることへの不安もあんまりないのかな?とは思います。
岩本アナ
理学療法士の特性上、元々一つのことに対して複数人で担当するので、1人が育休を取ってもみんなで回していけるような体制がある、ということですかね。
太田さん
そうですね。患者Aさんを1人でずっと見る、というわけじゃないので。
あとは育休に入る時期が分かっているので、例えば論文作りましょうとか、締め切りがあるものに関しては育休に掛からないように伝えたり。勉強会にしても、そこまでで終わるように。学生の指導とかにしてもそうですね。

「あらかじめコミュニケーション」と「困った時はお互い様精神」

岩本アナ
男性育休について、残った職員へのフォローなどはどうされていましたか?
太田さん
若い職員が多いので、女性にしても男性にしてもみんないつか自分にも子どもが生まれて休むかもしれないと思っていると思うんです。
岩本アナ
明日は我が身じゃないですけど、自分も周りに助けてもらう時がくるかもしれないから、お互いに助け合って頑張ろう、みたいな感じですかね。
太田さん
そうそう。あと、シフト担当のスタッフがかなり頭を使って日程を組んでくれているので、みんなそれに従って動こう!と信頼をしています。
岩本アナ
実際現場で「人手が足りなくて大変だ!」みたいな否定的な意見というのは全くなかったんですか?
太田さん
普段から全員が常にちゃんと出て来れるわけじゃないじゃないですか。風邪をひく時もあれば、有休を取る人もいたり。少し前のコロナの時なんて3〜4人同時に休んだりということもありましたので。理学療法という仕事が1日に診られる患者さんの数も決まっているので、もうその中で割り振るしかないので、誰かが休んだから余分に仕事をしなさい、ということはないんです。ただ患者さんには申し訳ないですけどね、「今日は人が少なくて長いことできないからごめんよ」ということはありますが。
岩本アナ
育休を取るための環境作りみたいなのが、太田さんはお上手なのだなと思いますね。「育休取るから、みんなで頑張っていこう」みたいな声掛けとかされるんですか?
太田さん
ありがとうございます(笑)。先程も言いましたが、総務さんが早めに育休の希望確認シートを作ってくれたのが助かりました。不在になる期間が事前に分かるので、シートをもとに話し合って、部署替えしたり、やりくりができるようになりましたので。
岩本アナ
そういう意味では育休を取りやすい環境というのは、取る側にしても残る側にしても「あらかじめのコミュニケーション」が大事だということですね。
太田さん
そうですね。それがあるから「育休までにこれをやっておこうね」っていうのも言えますしね。
岩本アナ
コロナの話もありましたが、病欠とかで突発的に休まないといけなくなるのとは違って、育児休業は予め期間が決まっていますからね。日頃のコミュニケーションの有無によって、休みを取りやすいかどうかが分かれたりもしますか?
太田さん
そうですね。それも一つの要因かもしれません。
岩本アナ
太田さんは普段、職員たちとのコミュニケーションをよく取られていますか?
太田さん
どうでしょう(笑)。職員も年齢が若くなったので、僕と話すのは緊張するところもあるかもしれないので。中堅クラスの人たちが若手をフォローしてくれますし、僕の次の世代が面談したり、話を聞いたりしてくれているので、あまり僕がどんどん何かやっていこうっていうのはないです(笑)。僕がというよりは、中堅クラスの年代の人たちがフォローしてくれています。ちょっと意図的にそういうふうにしてもらっているところもあって。
岩本アナ
日頃からいろんなところに気をかける人が、科内にたくさん芽生えているということなんですね。そういう環境が、育休にせよ、普段の有給休暇にせよ、大事になってくるのかもしれませんね。
太田さんと話して、管理職の人たちのスタンスって、男性が育休を取るためにすごく大事なんだなと、改めて感じました。

秦 真治さん(男性)

総務課
1,2年で総務担当に

田中 智子さん(女性)

総務課
総務で給与計算および育休の調査などを担当。

目次
  • 2年で6人!男性育休の多い病院
  • 男性育休への社内の反応は?
  • 院内に保育園!育児をサポートする職場
  • 「育休=特別なこと」にしない
  • 希望に応える「仕組み」と「覚悟」
  • 育休を取ること、取らせることが目的ではない

2年で6人!男性育休の多い病院

岩本アナ
現在、安来第一病院さんでは男性の育休取得は全部で何人ですか?
田中さん
この2年間で6名です。それ以前にも、ポツポツと取得する方はおられました。
岩本アナ
この2年間で初めて男性が育休をとったわけではないのですね。初めて取られた方はいつ頃ですか。
田中さん
おそらく5年ぐらい前におられたかな?と思います。
岩本アナ
5年前というと、当時だと結構先進的な感じがしますね!この2年間でだいぶ男性の育休というものが院内で広まってきたな感じなんですね。男性育休を取られたのは理学療法士が5人、検査技師が1人で、みなさん1か月から2か月ぐらい取られたんですかね?
田中さん
短い方は1週間とか、長い方も平均して1か月ぐらいですね。
岩本アナ
率直に、男性が育休を取るということに関してどう思われますか。
秦さん
「そういう時代なんだな」という感じです。法人としても職員の仕事と家庭の両立のため、希望があれば極力協力をしたいなと思っています。
岩本アナ
この2年間で、男性が6人も育休を取ったというのは、すごいと思います。法人としての苦労など無かったですか?
田中さん
実は、男性育休6人が多いというのが、ピンときてなかったんです。
秦さん
当院は、特別に育休を推進する活動をしていたわけでもないと思っているので、他社はもっと取っていると思っていました。取材を受けて初めて「うちって割といい水準で育休を取ってたんだ」と知った感じです。
岩本アナ
安来第一病院では男性育休が取りやすいという意見も聞いたのですが、それは病院としての方針なんですか?特別なサポートがあったりしますか?
秦さん
男性の育休を後押ししよう!と特別にサポートしているわけではないんです。義務化を受けて、男女問わず育休への意向を確認するシートは記入してもらっています。法人としても、事前に把握しておいた方が計画を立てやすいというメリットがありました。人事異動などが必要かどうかなど、上司の方と相談しやすいと思います。
岩本アナ
実際、意向確認シートをもとに人事的な動きもあったんですか?
秦さん
そうですね。例えばリハビリテーション科は当院だけの部署ではなく、いろんな病棟等にスタッフを配置しているので、人事異動をかけて「ちょっとここが手薄になるよ」と。そのようなところで活用していっています。
岩本アナ
事前に育休の有無が分かるのはとてもありがたい、準備ができる、という声もありました。やっぱり法人としても先に「育休を取ります」と示してもらえればサポートもしやすいですよね。

男性育休への社内の反応は?

岩本アナ
僕の会社では、僕が男性育休第1号だったので、女性の育休のノウハウはあるけど男性になると…ちょっとハローワークに聞いてみないと分からない、みたいなところから始まったんです。男性が育休を取る際に、そういった苦労はなかったですか?
田中さん
人によって期間とか、取るタイミングとかも違いますし、分からないことはすぐにハローワークに確認したり、インターネットで調べたりしながら始めていたと思います。やっぱり前例があまりなかったので。
岩本アナ
「取れるけど取ってなかった」っていうのが今までの社会だったので。会社としてサポートをしていくために、制度ができたのは一つ大きなところですよね。これから、男性の育休推進について会社として取り組んでいきたいことはありますか?
秦さん
正直に言うと…取りたい人がいたらもちろん協力はしますが、男性育休推進にすごく特別なアクションを起こす、という感じではないと思います。男性育休はリハビリテーション科が多いんですが、当法人は全体で130人ぐらいリハビリテーション科のスタッフがいて、人数が多い分、比較的育休が取りやすいというところもあると思うんです。例えばもっと人数が少ない科で、マンツーマンで患者様を担当していると、果たして今取りやすい状況だと言えるのか…という悩みがあって。だからといって、人員を増やすというのも、なかなか簡単にはいかず。
岩本アナ
たしかに。1か月抜けるためだけに人を雇うべきか、というところですね。
秦さん
男性育休取得推進については、法人も周りも上司もみんなで努力はするけれど、だからといって「必ず取れる!」と言い切るのが難しい、状況やタイミングもあるのを感じています。ただ、全力で協力はしたいと思っています。
岩本アナ
女性が圧倒的に多い職場環境の中で男性育休への理解というのはどうですか?
田中さん
「えぇ育休とるの?」っていう否定的な感じはないですね。育休=当たり前みたいな雰囲気になっています。
秦さん
育休自体が当たり前で、たまたま男性が取っただけ、とみんな思っているのではないのかな?と思います。騒ぎ立てることも特になく、当たり前のこととして受け止めている雰囲気ですね。
岩本アナ
僕は育休から復帰した時、会社の子育て経験済みの女性たちが「育休どうだった?」「大変だよね〜〜わかるよ~」みたいに、味方になってくれたんですよ。
「その育休あるあるが男性と共有できるとは思わなかったわ」みたいな(笑)。こちらはもっと女性が多いので、味方になってくれる人もきっと多いですよね。
共通の話題も生まれ、日頃のコミュニケーションにもいい影響を与えてくれるんじゃないかなと思います。

院内に保育園!育児をサポートする職場

岩本アナ
院内に保育園をつくるといった取組もされているんですね。そういう仕組みがあると働きやすくなるのではないかと思うのですがいかがですか?
秦さん
そうですね。でも実はこれもなかなか大変で。いろんなことが「なかなか」なんです(笑)。
院内保育はある程度職員数がないと維持できないんです。補助金の制度を使って何かできないかな、というところでできたのですが、赤ちゃんが1〜2人だと預ける方も心配されるところもあって。現在は少し増えて4〜5人になって、今保育士さんが4人おられて(1人は産休育休中)。そろそろ手が回らなくなりつつあるという状況です。これは良いことでもありますが。
岩本アナ
院内保育園は、月〜金まで毎日預ける感じですか?土日もですか?
秦さん
月から金で、あとは金曜日の夜から土曜日までの夜間保育というのもやっています。夜勤のお母さんのフォローですね。「子育てが理由でなかなか夜勤ができない」という声が上がったので、当院で働く人に向けた取組です。
岩本アナ
院内保育園で子どもを寝かせてもらっている間にお母さんも週に一回夜勤をして、部署の人たちに負担をかけない体制を整えているんですね。病児保育もあるんですか?
秦さん
安来市の人口で病児保育は難しいようで、どこも手を挙げられてない中、うちは病院と併設なので要望があったのもありできました。職員だけでなく、職員以外の人にもご利用いただけます。
岩本アナ
安来市に住んでいるみんなのための病児保育なんですよね。
田中さん
そうですね。事前に登録と予約は必要になりますが。
岩本アナ
子どもが突発的に熱を出すこともあるので、自分の職場に病児保育があるとかなり安心ですよね。すごくいい取組だなと思いました。
秦さん
今日もたまたま、うちの部下の子どもが熱を出したみたいで「病児保育の空きはどうですか?」というやりとりをしていました。実際に病児保育をして、今日は仕事に出てもらっています。やはり心強いですね。
岩本アナ
そういう場所があるとね。本当は休めたらいいんですが、急なことだし、外せない仕事があるときもあると思うので。そんな中で病院が院内保育園や病児保育などの取組をしているのは、育児と仕事の両立がしやすい環境だと思います。
大変なこととは思いますが…続けていただければと。

「育休=特別なこと」にしない

岩本アナ
男性の育休取得が増えたことで、院内に変化は特になかったですか?
秦さん
それが、いい意味であまりないんですよ(笑)。我々も特に騒ぐこともなく、粛々と(笑)。でも多分そこが大切なんだと思うんですよね。取りたいという意向があっても、過剰に反応せずに粛々と受け入れること。育休が当たり前のことになっていくのがいいのかなと思います。せっかく制度があるのだから、どんどん使ってもらえれば嬉しいですね。
田中さん
法人として大々的に育休をうたっているわけでもないですもんね。男性育休が多いとも思っていなかったのもあって(笑)。
岩本アナ
男性育休に理学療法士の方が多いというのは、何か理由があるんですかね?
秦さん
人数とか年齢層とか、そういうところも関係していると思います。今、理学療法士は若い人が多いので、出産や育休も男女問わず多いです。
岩本アナ
今後、男性育休を推進していく上で課題などはありますか?
秦さん
課題だらけですね(笑)。
田中さん
男性育休を取りやすい科、取りづらい科がはっきりと分かれてしまっていて。やっぱり取りづらい科に配属されている方は、一人ひとりの責任が重くなっていて、自分が休んだら人手が足りなくなって回らなくなるから、取りたいけどやめた方がいいのかな、と思っておられる方もいると思います。何か言われたわけではありませんが、そう感じています。

希望に応える「仕組み」と「覚悟」

岩本アナ
職員募集の時に「この会社は男性も育休取れるんだ」というのは若い人たちに響きそうに思うのですが、そこはあまりアピールされたりはしないですか?
秦さん
男性育休を大きくアピールするなら、それを目的で入職した人の期待にしっかり応える仕組みと覚悟が、職場には必要だと思うんです。色々タイミングが良かった、この部署だから取れた、ではまだ自信をもってアピールできるほどではないのかな…と。男性育休を取ってもらうためにやるべきことはもちろんやりますし、希望があれば最大限努力はしていきます!
岩本アナ
今秦さんがおっしゃられたことが、まさしく男性が育休を取りにくかった要因の一つでもあると思います。課題を一つひとつクリアしていかないといけないんですよね。「ちょっと取りにくいな」って思わせる環境が、まだまだある会社も多いと思うので、そこを一つひとつクリアして、女性も男性も希望する人みんなが育休を取りやすい世の中になっていくといいですよね。
 秦さん
国も県も努力しておられると思うので、我々企業も努力して。そうやって少しずつ男性育休を取れる状況になってきたのかなと思います。
岩本アナ
僕は育休期間が2か月だったんですが、これが1年取れるかと言われたら多分難しいだろうなと思って。話し合って2か月に落としどころがあったんです。男性が育休を取りやすい世の中に、組織もまだまだ変わっていかないといけないし、行政もしっかりと支援をしていかないといけないと思います。
秦さん
そうなんですよね。なかなか難しいことですね。

育休を取ること、取らせることが目的ではない

岩本アナ
安来第一病院は育休の希望に応えよう!という姿勢があり、本当に素晴らしいと思うんです。実際「育休を取って良かった」「取らせてあげて良かった」という声もあるので、実績として自信をもって伝えていただきたいなと思います。男性育休をしっかりとサポートしていきたいという思いが、どんどん広がっていけばいいですよね。
秦さん
本当にそう思います。男性の看護士さんとか、お医者さんとか、育休を取りづらいであろう人たちがどんどん取れるような仕組みができればと思っています。
岩本アナ
知識だけで考えてもなかなか結論を出せないところですよね。日本は全体的に慢性的な人員不足が続いている企業が多いので、その中で1人育休で抜けるって大変なことですよね。そこをどうクリアしていくか、知恵を出し合って、助け合っていかないといけないなと思いますね。
秦さん
今回この取材があったことで、また少し育休を取りやすくなると思うんです。こちら側としても何とか取らせてあげたいという気持ちが、より強くなりました。
岩本アナ
ある意味決意表明になりましたね(笑)。この記事を見て「ここで働きたい」という人が来た時、嘘にならないようにこれからも頑張っていただきたいです。
そして、最終的なゴールは「育休を取る、取らせる」ことじゃなくて「自分らしく働く」になってくるのかなと思いました。ひいてはそれが、若い人材の確保とか、働きがいとかにもつながっていくんだと思うので。
秦さん
そうですね。課題はたくさんあってなかなか難しいことですが、粛々と!がんばりたいです。

取材日:2023年10月12日

岩本アナウンサーの取材後記

医療業界の仕事、というと緊急の事態や不規則なことも多く、育休の推進はなかなか難しそう…というイメージがありました。しかし、安来第一病院はこの2年で男性の育休取得者はなんと6人!そのほとんどはリハビリテーション科でしたが、県内トップクラスの数字ではないかと思います。その秘訣は太田部長さんの話す職員同士の「あらかじめコミュニケーション」の賜物だと思います。当事者である米沢さんも、育休を含めた休暇が取りやすい環境だと話してくれました。日頃からコミュニケーションがあるからみんなで仕事をカバーできるということですよね。

また、総務の秦さん、田中さんは謙遜して話しておられましたが、育休の希望確認シートを作成するなど、男性であっても「育休を特別なことにしない」という姿勢が男性6人の育休取得に繫がっているのだと強く感じました。

今後この流れが他の科にも広がり、法人全体で良い流れが出来ていくんだろうなと思います。大変な業界だからこそ、ここでの育休の広がりが他の職場で働いている未来のパパたちを勇気づけるはずです。これからも業界内の、そして県内の男性育休の在り方をリードしていってほしいです。